幸はチェルト遺跡があるチェルト村の1つ手前のジルブ村に辿り着いた。日が大分傾きつつあったのと、何よりお腹が空いていたのでこの村に宿泊する事にした。まずは腹ごしらえのために飲食店を探していると、人の多さに幸は少し驚いた。
「この村ってこんなに人がいるの?」
 ジルブ村に来たのは初めてだったが、話に聞いた限りでは隣村のチェルト村へ行く人通りは多くても村に滞在する人は少ないと聞いていた。チェルト村の方が圧倒的に物流がよく、宿泊施設も多いからだ。この村は特に注目される何かがなく、幸のように時間的に先へ進むのが無理な人や、食事を取るためぐらいでしか寄る人はいないはずだった。
「この村近辺に遺跡とかってあったっけ?」
 人の邪魔にならないように地図を見てみるが、ここから最も近い遺跡はチェルト遺跡しかない。しかしここにいる人々は明らかにこの村に用があるように見える。
 若いウェイターが忙しそうに注文した食事を持ってきた。店の人は忙しく、この事を聞けそうにもないため幸は相席の、トレジャーハンターでなさそうな男性に聞く事にした。
「あのう・・・。」
 男性は食べる手を止め、「自分ですか?」と言うように幸の目を見た。
「この村ってトレジャーハンターらしき人が多いですけれど、この村に何かありましたか?」
 男性は視線を幸の目から地図に移し、そして地図を幸からひょいと取り上げた。
「・・・あー、なるほどね。2年前の地図か。そりゃ載ってないね。」
 男性は幸にも地図が見えるように広げ、ジルブ村から少し逸れた場所を指差した。
「ここに1年半位前にニッジョ遺跡が発見されたんだ。そして最近ようやく遺跡内部に入れるようになったから、こうしてトレジャーハンターが押し寄せてきたんだよ。」
 幸はお礼を言って料理を食べ始めた。
(ああ・・・、エセ関西弁・・・いや長いからエセ関西人でいいか、エセ関西人が売ったあの地図が本物だったなら、載っていたんだろうなぁー。)
 結局お金を突き返しさっさと去っていった大地と京一の顔を思い出しながら、最新版の重要性をひしひしと感じた。
(よし、予定を変更してニッジョ遺跡に行ってみよう。)
 食べ終わってレジで支払いをするために列に並んだ。すると幸の前に並んでいた人の順番が来た時その男性は「財布がない!」と慌て、そして強硬手段の食い逃げを試みようとしたがあっさりと捕まえられ、店の奥に連れて行かれた。
 幸はその光景にデジャヴを感じながら、明日は何もトラブルが起きないよう祈った。

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