フロンティアでも指折りの神殿と言われるだけあって、チェルト遺跡の前にやってくるとそのたたずまいに圧倒された。外壁は少々風化しているにもかかわらず、なお繊細で緻密な彫刻が隅々まで彫られていて、考古学者以外にも芸術家と思わしき人々がスケッチにやってきていた。もちろん普通に観光をしに来ている人もいる。
「随分と人がいるわねぇ・・・。遺跡内の立ち入り調査とか行き届いているのかしら?」
 鈴音は辺りを見回しながら幸の後をついていく。ついでにトレジャーハンターらしき人とすれ違う時に器用に財布をすっていく。
「チェルト遺跡の立ち入りは一応全面禁止になっているけれど、正面入り口以外の警備はゆるいらしいよ。だから誰でも入ろうと思えば入れるとか。」
 鈴音が財布をする所を横目で見ながら正面入り口から逸れていく。
「つまり『入りたいなら入っていいけれど、全て自己責任』って事だよ。」
「下手したら遺跡内が屍だらけになりそうね・・・。」
 遺跡を壁伝いに歩いていくと小さな扉の裏口を見つけた。
「本当にゆるいわね・・・。」
 辺りに警備員らしき人はいない。
「でも厳しかったら手続きがすごく大変だから、こっちの方がありがたいかな。私って考古学者って言っても門前払いになる確率が高いんだよね。まだ成人していないし。」
 静かに扉を押して中へと入る。裏口のため通路は狭かったが意外と内部は明るかった。高い天井を見上げるとそこには灯りがともされていた。そのまま進んでいくと大広間に出た。そこには正面入り口の扉がある。その反対側に祭壇があり、7人の神々の絵画が飾られている。広間の様子から、当時ここは一般人の立ち入りが出来たのだろうと推測できる。
「この広間くらいなら一般開放されても大丈夫なように思うんだけど。」
 鈴音が一通り部屋を見、安全を感じたのでそう言った。
「例え安全でも遺跡の破壊を防ぐために立ち入り禁止にしているんだよ。外にいる観光客がみんなこの遺跡内に立ち入ったら、床が何センチ凹むのやら・・・。」
 幸が床に目を落としているのを見て鈴音も床に目をやった。大理石で綺麗に仕上げられた床は細かな傷がたくさんついていて壁際の床と比べると少々磨り減っているのが分かる。
「確かに・・・。幾ら丈夫とはいえ全く壊れないわけじゃないものね。」
 そして幸は祭壇の横にある小さな扉を開いた。そこから2人並んで歩ける程度の狭い通路が伸びていた。
「何かトラップの仕掛けがいのありそうな廊下ね・・・。」
「でもここを進まないと他の場所に出られないし、行くよ。」
 幸がまず扉をくぐり、鈴音は幸より半歩下がって隣を歩き始めた。先程の広間ほど明るくはないが灯りは必要なかった。床は平らにしただけのやや粗い石を敷き詰めたものに変わった。通路に窓はなく日差しが入らないため、室温が低くとても過ごしやすい。所々に扉があり、中を覗いてみたが祭事の道具を収める棚があるだけで他に何もなかった。
 通路の突き当りには扉があり、そこにフロンティアの文字で何かが書かれていた。
「何か書いてあるけど、幸は読めるの?」
「うん。・・・『神々の力を受け継ぎし者のみ立ち入りを許可す』って。」
「ん? 神々の力? 神主様の事かしら・・・?」
 鈴音の疑問に幸は答えずに扉を開いた。扉の向こう側は幸達が歩いてきた道と何ら変わりがなかった。しかし警告文があるせいか、そこがまるで異空間のように感じられた。
「トラップがあるならここからかな・・・。」
 幸は恐る恐る足を踏み入れる。けれど何も起きない。続いて鈴音も入ったが何ともなかった。
 しかし次の足を出した瞬間、
 ガコンッ!
 幸の足場がなくなった。
「幸っ!?
 鈴音がとっさに幸の腕を掴み、幸が穴へと落ちる前に引き寄せた。
 開かれた穴の奥底には荒々しい岩が転がっていて、血によって赤黒く変色している。その岩の間に衣服をまとった白骨が挟まっていた。穴は2人に神殿に入った者の結末を見せつけた後、何事もなかったように閉じられた。
「いきなり冗談じゃない事するわね・・・。」
 血の気が引き、鈴音は慎重に床を確かめたものの再び開く事はなかった。
「落とし穴はよくあるけれど、岩が仕込まれているのは初めて見たよ・・・。ありがとう、鈴音。」
 幸はより警戒しながら歩き始めた。
 それ程歩かずに再び扉のある突き当りにやってきた。扉にはまたフロンティアの言葉が書かれていた。しかし1つ違うのはその扉には鍵がついていた痕跡が残されている事だ。誰かが壊して無理矢理開けたようだ。
「『神々の力を扱える者のみ立ち入りを許可す』か・・・。この遺跡は本当に許された人しか入られなかったんだ。」
 扉を開けるとそこから階段が始まっていた。しかし灯りは一切なく真っ暗で、上を見上げても何も見えない。
「ここから先は幸のヘッドライトだけで進むの?」
 鈴音が気乗りしない声で幸に言う。
「いや、電源装置か何かあるよ。」
 扉の内側の壁にフロンティアの力のマークが刻まれた機械が埋め込まれていた。画面しかなく幸が手をかざすと画面に記号のようなものが複数映し出された。そして順番に記号に触れると階段に灯りが灯された。
「幸って困った時は力任せってイメージがあったけど、すごいじゃない。」
 どうして灯りが点いたのか分からない鈴音は唖然として幸を見つめた。
「それって褒めているのかな・・・?」
 対して幸は鈴音の言葉に笑顔を引きつらせた。

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