幸は思わず目を逸らしてしまった。鈴音に何も悪い事はしていない。しかし同じ名の仕事をしている身として、その目を見る事が出来なかった。

 ふと、視線を壁に向けた時、奇妙な事に気が付いた。岩肌をレンガで覆って造られた壁に、レンガ本来の大きさを無視してわざわざ切り込みが入れられている。その切り込みは丁度人1人分の大きさ、まるでそこをくり貫いて戸を取り付けようとしていたかのように入っている。
 幸は体を壁へ向け、その壁を念入りに調べ始めた。
「何やってんのよ。」
 鈴音が怒って幸の肩を掴むが、返事をする間も惜しんで壁を確認する。
 そして幸が、戸らしき線が入っている横にある、地面と接したレンガを押すと、戸を付けるように切り込みが入っていたレンガが窪まり、それは横へスライドし、2人の目の前に隠し部屋が現れた。
「っ! こんな所に部屋があったんだ。」
 しかも中は全く荒らされておらず、書籍や当時の硬貨、この家の持ち主のアルバムや日記らしきものが置いてあった。どうやらトレジャーハンター達はこの隠し部屋に気付かなかったらしい。
「やったよ、鈴音! これはすごい資料になるよ。何たって当時の人の暮らしぶりや思想が分かるんだからね。・・・・・・鈴音?」
 幸が鈴音の方を見ると、鈴音が恐ろしい形相をしていたので思わず固まってしまった。
「どうせ・・・どうせあんたも同じなんでしょ? 全部自分の利益にするつもりなんでしょ! 村から本当に全て奪う気なの!?
 鈴音は我を忘れて幸の胸倉を掴んで叫んだ。鈴音の手を解こうにも固く結ばれていて、思わず鈴音の手を包み込んで握る形になってしまう。
「誤解しないで! 私をあんなやつらなんかと一緒にしないで! 私も・・・私達・ ・も被害者なの。あいつらの所為で色々なものを奪われた・・・。私も鈴音と同じように奪われたものを取り返したいの! その1つがトレジャーハンターの『職業観』! 本来なら考古学者の手助けをする職業だったのに、あいつらの所為で『盗賊』というレッテルを貼られた。そして今までいた普通のトレジャーハンターは活動出来なくなって、考古学者に負担がかかるようになって、研究が進まなくなった。だから私は、せめて私だけでも、本来のトレジャーハンターとして活動して、皆に本当の姿を知ってもらって、また今までみたいに考古学者をサポートする職業に、自分はトレジャーハンターだって胸を張っていえる職業に戻したいと思って、あえてこの職業をやっているの!
 ・・・私1人の力じゃ無理かもしれないけれど、それでもやらないよりはマシ。それに私の事を知った人が他の人に広めていったら、きっといつか取り戻せるんじゃないかって思うの・・・。だから、信じて。」
 鈴音は呆気に取られ、強く握っていた指の力が弱まる。それを幸は優しく解いて鈴音の手を握り返した。
「この部屋の中にあるものはちゃんと全部プロスト村に寄付するよ。トレジャーハントはしない約束だったし、それに・・・、村の事情を聞いちゃったしね。」
 幸が寂しげに笑う。鈴音はしばらくじっとその目を見つめた後、静かに口を開いた。
「・・・本当なの? 本当に報酬とかいらないの?」
 鈴音が疑り深そうに、しかし今までのような鋭さはなく聞いた。
「もちろん。・・・あっ、でも、」
 全くないのも困りものだと思い、幸は少し考えてから言った。
「もう1泊鈴音の家に泊めてくれない? 食事はなくていいから。」
 鈴音は意外な答えに面食らったが、
「あんた・・・やっぱりバカね。」
と、初めて幸に向けて笑顔をこぼした。

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