「ようやく撒いたようね。」
 少女は走るスピードを落とす事なく後方を確認した。
「村に帰る途中に寄った温泉で、トレジャーハンターからお金を盗めるなんてラッキー。」
 彼女は様々な場所でトレジャーハンター相手に盗みを働き、ある程度溜まった額を家に持ち帰る途中だった。その際立ち寄った温泉で偶然幸がトレジャーハントをしたいという独り言を聞いたので、今回の盗みを働いたのだった。

「・・・・・・ん?」
 ふと何かが崩れたような音が、遠くから聞こえた気がした。
「また崖崩れかな。」
 それほど気にする訳でもなく、後ろを振り返らずに走り続ける。しかしその音は一度きりではなかった。しかもその音はだんだんと大きく、いやどちらかというと近付いてきている。

 ガシャーン

「うりゃー」

 ガーン

「そりゃー」

 ドガッ

「・・・・・・? 何なの・・・キャーーーーッ!!
 彼女が異様に思い後ろを振り向くと、幸が今まで道にあった大岩をことごとく素手で打ち砕いていた。そのおかげで回り込んで走る必要がなくなり、犯人に再び近付く事が出来た。
 しかし、それにしても無茶苦茶である。
「待てー!!
「何なのあの馬鹿力はっ・・・。あと、誰が待つもんですかあっ、ひゃあっ!」
ドサッ
 犯人はずっと後ろを向いて走っていたために、足を滑らせ大岩から落っこちてしまった。
「あ!」
 幸が犯人に追いつくと、犯人はその場に座り込んでいた。
「さあっ! 財布を返してもらうよ!」
「何の事?」
 彼女がきょとんと幸に聞き返す。
「身に覚えがなかったら逃げるなんて事をしないよね?」
 幸は凄んで犯人の鞄をひったくる。
「あっ! ちょっと! やめなさいよ!!
 彼女に取り返される前に鞄から自分の財布を取り出し、中身が全てそろっているか確認した。
「良かったー、全部あるー。」
 財布をウエストポーチにしまうと犯人は苦渋に満ちた顔をした。
「・・・警察には言わないから、もう絶対にしないでよ。」
 幸は立ち去ろうとしたが、その時ある事に気が付いた。
「もしかして・・・足を挫いたの?」
「!」
 少女が足を押さえている事に気付き、その手をどかすと少し腫れ上がっていた。
「ちょっと待って・・・。」
 幸は気まずくなってウエストポーチの中を探り、使用期限を確かめてから彼女に湿布を渡した。
「・・・・・・は? バカなの?」
「えっ!? でもそのままじゃ、もっと悪くなるし・・・。そもそも私が原因だし。」
 少女は若干幸を疑いつつも湿布を患部に張る。
 その様子を見ながら、幸はふと思いついた事を口にした。
「ねえ、どこまで行くの?」
「は?」
「このまま放っておく事も出来ないし、近くなら送っていくよ。」
「あんた頭大丈夫?」
 彼女から容赦ない言葉が飛んでくる。
「・・・・・多分、問題ない?」
 幸はじっくり考えてから曖昧に否定する。
「問題あるでしょ! 何ひったくり犯労わってんのよ! あんた強盗が家に押し入ってきたらお茶でも出すわけ!? 信っじられない!」
「強盗は追い返す。」
「でしょ!? あんた今お茶請け付きでお茶出してんのよ!? 解る!? だからほら、さっさとどっか行きなさい!」
「・・・でも、財布を取り返した時、怒るんじゃなく辛そうな顔をしていたから、もしかしたら本当はいい人なのかなって。」
 その言葉に、まくし立てていた少女が絶句する。
「・・・あなた、人生大損するタイプね。」
「そう、なのかな?」
 幸は首を傾げる。その仕草にため息をつく。
「・・・プロスト村。」
 ぽつりと少女が呟く。
「え?」
「帰る場所よ。」
 渋い顔で少女が告げる
「うん、わかった。じゃあ、ちゃんとつかまっていてね。」
「え? ・・・ってちょっと待った、ちょっと待った!!
 幸は軽々と少女を立ち上がらせ、そのまま背中に負ぶった。
「こっ・・・この歳になっておんぶなんて恥ずかしいじゃない! しかも私より身長が低い子に・・・。」
「大丈夫、誰もいないよ。」
 2人の周りには大きな岩と、幸が砕いて小さくなった岩が転がっているだけである。
「私は秋山幸。考古学者をしているの。あなたは?」
「・・・・・・早瀬鈴音。」
「よろしく。」
 幸はついさっきお金を盗まれかけた事なんてなかったかのように笑いかけてきたので、鈴音は少々面食らった。
「・・・よろしく。」
 そして幸は崖の下に沿って歩き始めた。

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