すると目の前に巨大な空間が現れた。
部屋には、左右と突き当りの壁際にそれぞれ2体ずつ石像が置かれていて、突き当りにある石像2体の前に石版が置かれていた。
「やっと辿り着けた・・・。」
半ば放心状態で部屋に入っていく。
「どうやらここは、神殿のようだな。この石像は神話に出てくる7人の神々かな。」
美優の従兄が言った。
「光の神、闇の女神、地の神、水の女神、火の神、風の女神、・・・あれ? 雷の神がいないぞ?」
部屋を見回すが、そこには6体しか石像がない。
「それは恐らく、この遺跡はフロンティア中期のものだからじゃないか?」
1人の考古学者が返事をする。
「神話の中に雷の神が出てくるようになったのはフロンティア全盛期、つまり後期だからな。それ以前にここが造られたなら別におかしくもないだろう。」
「なるほど。私の担当している遺跡周辺は後期のものばかりだから、すっかり忘れていたよ。」
そしてそのまま従兄は、他の人との会話に混じった。
幸は神話にはあまり詳しくないので、石版の解読作業に移ることにした。
石版の目の前に来るのは随分と久しぶりだった。
この石版の存在を知ってから、はや3年経つが、幸は今までこれを合わせても3つしか見た事がない。1つは石版の存在を記した『始まりの石版』、もう1つはたまたまトレジャーハントをした際に偶然見つけ出せた石版だった。
幸が石版に手で触れると、ひんやりと冷たさが伝わってくる。それと同時に、初めて石版を見た時の、不思議な感情も思い出した。
(あの日から、もう3年も経っているんだ・・・。なのに、まだ2つしか解読出来ていないなんて・・・。)
悲哀と悔しさがごちゃ混ぜになり、息が苦しくなる。その感情に呑まれないよう大きく息を吐き出して呼吸を整え、ゆっくり目に焼き付けるように文字を辿り始める。
従兄は幸が石版を読んでいる事に気が付き、幸のもとへ寄りその石版の文字を辿ってみた。
「・・・うーん、さっぱり分からん。私も多少はフロンティアの文字は読めるのだが、これはさっぱりだ。ただの単語の羅列で、まったく文章になってないな。まだ、詩となら呼べそうだが・・・。」
幸は従兄が来ていた事に気が付き、振り返って話す。
「これは暗号なので、そのままじゃ読めません。」
「ええ!? じゃあ、さらに解読しないといけないのかい!?」
「はい。でも解読の仕方はもう知っています。この石版の存在を記した『始まりの石版』に、解読方法が載っていました。だからすぐに読めますよ。」
幸が平然とした顔で喋っているのを、従兄はただ呆然と聞いていた。
「な・・・何て書いてるんだい?」
「えーと・・・、
『始めの頃は天候や光の操作等は研究員達しか行う事が出来なかった。それを物に細工を施したり、新たに作る事で実用化し、大衆に広く流布される事となった。最初は数回使用すれば寿命が来たが、改良を重ねるうちに寿命が飛躍的に長くなり、また使用方法も容易になった。他国もその技術を欲するようになったが、外交で優位に立つ為か、決してフロンティアが輸出する事はしなかった。その頃から技術の流出を防ぐ為にフロンティアのマークが新たに考案され、道具にマークを施すよう義務付けられた。』
・・・と書かれていますね。」
そのようすを見ていた従兄は開いた口が塞がらずにいた。まだ学校や仕事先で勉強をしていてもおかしくない年齢の子がいとも容易く古語を、しかも暗号で書かれたものをスラスラと読み上げたのが信じられなかった。
「この文章はフロンティア中期末から後期初頭についての話ですね。・・・石版の内容に合わせて配置する遺跡を考えたのでしょうか? 丁度この遺跡も中期のものって言ってましたよね。」
その言葉で従兄が我に返る。
「そうだな。・・・もしかして雷の神が神話に追加されたのって、これと関係があるのだろうか・・・? 丁度時期が同じだ。」
そう言って従兄がその事を皆に伝えようと後ろを振り返った時、
「ああっ!!」
従兄は何かに気付いて叫んだ。
「どうしたんですか・・・あっ!」
幸が、皆が、従兄の声の方向へ顔を向けると、部屋への扉から光が差し込んでいる。通路を見ると、遺跡の外までまっすぐ繋がる道が出来上がっていた。
「いつの間に・・・。」
「これで帰りは楽だー!」
思わず誰かが叫んだ。
その声に思わず皆が笑ってしまった。