「残念だけど、この村には宿が1件しかなくってね、しかも今は考古学者達がずっと泊まってるから、空き部屋はないと思うよ。」
 家の中は喫茶店になっていて、コーヒーの匂いがほんのり漂っている。食器があちらこちらに散らばったままなので、おそらく片付けている途中だったのだろう。
「はー、じゃあ、やっぱり野宿かなぁ。」
 幸がぼそりと言ったのを、女性は聞き逃さなかった。
「ええ!? 野宿なんて危ないわよ。最近トレジャーハンターも多いし、気付いたら一銭もない、何て事もあるよ。」
「大丈夫です。今まで襲われた事はありませんし、私、気配には敏感ですし。」
「いやいや、そういう問題じゃないでしょ!」
「でも、宿がないならそうするしか。」
「・・・うーん、じゃあ、ここに止まってく? 部屋ならないこともないし。」
「え!? そんな、迷惑では・・・。」
「いいよいいよ。ただ、他にもお客さんがいるけどね。」
「他のお客さん?」
 女性はテーブルの上にある食器を片付け始める。
「あ、私も手伝います。」
 幸も食器をまとめ、流しへと持っていく。

「今日は他の村から従兄が来てるの。考古学者やっててね、エザム遺跡を見てみたいっていきなりやって来たのよ。本当ならこの時間、まだお店やってるんだけど、従兄のために閉めちゃった。」
 女性が明るい笑顔で笑う。
「私は大西美優っていうの。あなたは?」
「秋山幸です。」
 さっちゃんか。よろしく。」
 全ての食器を流しへ持っていき、洗い始める。
「ところで、ここって喫茶店ですよね。表に看板とか置かないんですか?」
 地元の人ならともかく、よそから来た幸には民家との区別が全くつかなかった。
「開店中のみ立て看板を置いてるくらいね。ドアにも一応『開店中』『閉店』って看板掛けてあるよ。」
「え? 掛け看板ありませんでしたよ。」
 ドアを叩いた時のことを思い出してみたが、確かに看板を掛けるフックはあったものの、看板などなかった。
「ええ!? また風で飛んでったのかしら?」
 (よく飛ぶんだ。)
 美優がバタバタとドアへと向っていく姿を見て、思わず笑いそうになってしまった。

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