「秋山はん、体温計れました? お医者さん来はったんですけど。」
すると京一がドアの向こう側から声をかけてきた。体温計を見ると38度を過ぎた辺りで動かなくなっていた。
「計れた。お願いします。」
幸の言葉を聞き終わってから医者だけが部屋の中に入ってくる。一通り診察してもらうと、医者は「多分疲労だろうね。」と言った。
「栄養のあるものを食べてゆっくり休みなさい。」
そう言って医者は部屋のドアを開ける。ドアの向こう側には京一が立っていて、京一に「そういう訳で大丈夫だよ。」と声をかけた。
「ありがとうございます。」
京一が頭を下げると、医者は京一の頭を軽く撫でて家を出ていった。
「疲労で倒れるとか何考えてますん?」
医者が居なくなるなり京一の野次が飛んできた。
「私は無理していた気はなかったんだけれどな・・・?」
幸は首を傾げると、そのままバランスを崩して布団に倒れこんだ。
「その状態の何処が無理をしてない言いますん?」
そう言って幸に布団を被せる。
「いや・・・、邪魔になるから宿を取ってそこで寝るよ。」
幸は起き上がろうとしたが、京一にあっさり押さえつけられる。
「早よ寝よし。」
京一に笑顔で凄まれ、幸は怖じけづいて起き上がる気力がなくなってしまった。
「ええ子。」
京一はにっこり笑ってきちんと布団を被せると部屋を出ていった。
「本当に良かったのかな・・・・・・?」
幸は不安になって視線をさ迷わせた。その時、箪笥の上に色褪せつつある写真を見つけた。
その写真には10歳にならないくらいの京一が写っていて、後ろには両親と、両親の腕の中に平治と思われる小さな男の子と、同い年くらいの女の子が居た。そして写真立ての横に花と果物が添えられているのに気が付き、あわてて写真から目を反らした。幸は布団を頭から被って、写真が視界に入らないようにした。