そのお店には様々な部品が所狭しと置かれていた。引き出しなどに付けられるような持ち手や蝶番など馴染みのある部品から、何に使えるのかさっぱりわからない曲がりくねった金属まで置いてある。ある一角に骨董品コーナーと書かれたスペースがあり、そこにフロンティア時代のものと思われるよくわからない物がたくさん置いてあった。
「一見ただのガラクタの山に見えるんだけど、こういう所に掘り出し物があったりするんだよねー。ジェットエンジンもこういう感じのお店で見つけたんだ。」
早速榎菜が片っ端から品物を見定めていく。幸も何の気もなしに部品を手に取る。
「え!? こんな部品1つでこんな高い値段が付くの!?」
驚きのあまり商品を落としそうになる。
「え!? こんなもんじゃないの!?」
その言葉に榎菜も驚く。
「こんな小さなパーツ1つでこんな値段が付くなんて・・・。でも考古学者から直にしか買った事がないから、問屋を挟むとこのくらいの価格になるのかな・・・?」
他の部品の値段も確認していくが、どれもこれも幸の知っている価格の数倍は高い。
「うっそ!? 考古学者から直に買えるの!? うーわー、もったいない事したぁー。」
榎菜が頭を抱え込む。それを見て幸は思わず笑ってしまう。
「でも一部のパーツだけが欲しいならこういったお店の方がいいかもね。考古学者から買う場合、バラバラに壊れてしまったものを復元して史料としての価値があるか確認してから、不要な場合は解体せずそのまま業者に引き渡したり販売したりしちゃうから。」
「なるほど、必要ない物もたくさんついてたら結局は単品で買った方が安いか。」
榎菜は再び品定めを始める。
「とりあえずコレとコレとコレとコレと・・・、コレって何の部品だと思う?」
榎菜が中に液体のような物が入った筒を幸に見せる。
「何だろう。冷却か加熱をする物かな? 携帯調理器具にそんな感じのパーツがあったような気がする。」
「ほうほう。どっちの機能でも役に立つから買ってみようかな。」
手当たり次第気になった物を掴んでは、よくわからない物は幸に尋ねる。幸も見た事のある範囲で説明をしていく。そして気付けば買い物カゴは山盛りになっていた。
「よし。ひとまずこのお店はこんなものかな。一体いくらになるのやら・・・。」
カゴの中のパーツを見て、やっぱり幾つか戻そうかなと考え直す。
「いや、ここは値切り交渉をしよう。」
幸が笑って小さなソロバンを取り出した。
榎菜が部品をレジに置くと、店主は1つ1つ値段を確かめ電卓で計算していく。それを見て幸も店主と違う数字をソロバンに入れていく。
「じゃあお会計これね。」
店主が電卓の数字をこちらに見えるように反転させる。
「じゃあこちらの半額にして下さい。」
「はあ!?」
「ええ!?」
幸の突拍子もない値切りに店主と榎菜の双方とも驚きの声を上げる。
「まずトレジャーハントの謝礼額がこの位の値段で、次に考古学者が組み立てて販売するとしたら大体この金額になるでしょうから、そこから買い取って分解する手間を考えたら先程の考古学者の販売価格とトレジャーハントの謝礼額との差額を考えると多めに見積もってもこの位の値段でしょう。これは表示価格の3分の1の値段しかないですよね?」
幸がソロバンで見積額を示す。
「ぐ・・・、さすがに半額は無理だ。」
店主が青い顔をして電卓で金額を入れ直す。
「もう一声。」
電卓に手を伸ばして幾らか差し引く。
「・・・おまけにこれもやるから諦めてくれ。」
苦々しい表情で部品を幾つか追加し、金額を戻す。幸は榎菜の顔を伺った。
「じゃあそれで。」
榎菜が笑顔で応ずる。
「まいどありー。」
店主は開放されたようにため息をついた。