ひたすらがむしゃらに走り続けて、榎菜のバイクを停めてある宿屋に飛び込む。しばらく窓から外の様子を伺ったが、誰かが幸達を探している気配はなかった。
「・・・っはー、やばかったぁー!」
榎菜が大きく息を吐き出し、床に座り込む。
「本当に、撒く事が出来てよかったよ。」
幸も座って汗を拭おうとした時、まだ榎菜から借りた筒を手に持っていた事を思い出した。
「あ、これを貸してくれてありがとう。」
「あ、どうも。・・・てか! 幸、アレ一体何やったの!?」
榎菜が先程幸がした事に驚いて詰め寄る。
「えーっと、何となく火力を上げる道具のような気がして、でも中身は取り出せなさそうだったから、それなら筒自体を加熱すれば筒が熱源になってくれるのかなって思って、それでゴミ袋に火を点けたの。後は普通に消火をしただけ。」
「え!? 何となくであの結果!? ええええ!?」
榎菜が幸に迫る。しかし幸自身フロンティアの道具を使いこなす為の力を持っているとはいえ、何故そうする事が出来ると思ったのかはっきり言える理由が分からなかったのでただただ困った笑みを浮かべる事しか出来なかった。
「うーん、ま、本人も分からないなら仕方ないか。結果オーライなら。」
幸の心中を察して榎菜は幸から離れた。
「しかしそうかぁー、これはあんな熱源を発生させる事が出来るのかー。」
榎菜は不思議そうに筒を眺め直す。対して幸は立ち上がった。
「さて、水筒の水がまたなくなっちゃったし、買いに行かなきゃ。榎菜は買い物の続きは止めておく? あの店主がうろついているかもしれないし。」
「いや、あたしも行くよ。あたしがうっかりしてた所為で幸の飲み水がなくなっちゃったんだもん。1人で隠れてなんていられないよ。」
榎菜も服に付いた砂を払って立ち上がる。
それから幸の食料を買い足し、他のお店も数件回ったが、あの店主と出くわす事はなかった。
「ふー、今日は有意義な買い物が出来たよー。」
榎菜は部品が山盛り入った袋を手に嬉しそうに笑う。
「あ、でも1日振り回しちゃってごめんね。」
「いやいや、全然そんな事はないよ。私も楽しかった。フロンティアの部品が考古学者の手から離れた後にどう使われているのか見る事が出来たし。」
先程万引き犯にされかけたようにフロンティアの道具は本来の歴史的、科学的価値を無視し金儲けの為に悪用される事も多かったが、榎菜が科学の発展の為に使おうとしている所を見る事が出来てとても嬉しかった。
「そう? もしギーグに来る事があったら、その時は工場見学させたげる。ぜひぜひこの部品達がどうなるのか見て行って!」
「うん!」
そして2人は宿に戻ってからも道具について夜遅くまで語り合った。