「・・・暑い・・・・・・。」
頭上から情け容赦なく降り注ぐ太陽の日差しに悪態をつく気にもなれず、ただ惰性のままに幸は歩いていた。
ここはリケート砂漠。シャナ国一美しいと言われている砂漠である。砂漠の美しさは砂の粒子の細かさに比例する。つまりこのリケート砂漠はシャナ国一砂が細かく、軟らかい為非常に移動が困難な土地であった。
更に幸には移動を困難にさせている要因があった。
ポーチから水筒を取り出し、蓋を開ける。口元に水筒を持っていき逆さまにするが何も出てこない。
実は前の町を出発する際の食料調達で見積りを間違えてしまったのだ。その為砂漠をまだ半分位しか乗り越えていない時点で水を飲み干してしまった。
無感情で水筒を見つめたのち、再び惰性に任せて歩き始めた。1歩足を進めるたびに足が深く沈み、容赦なく体力を奪っていく。そしてとうとう足を取られてうつ伏せに倒れ込んでしまった。起き上がる気力ももうなく、幸は身体を仰向けにして空を眺めた。天頂に雲はなく太陽が煌々と照っていた。風で身体に砂が被さっていくのも気にせず、ただ空を眺めた。
(・・・天国があったなら、こんな感じなのかな・・・。)
何となく幸は、天国はだだっ広い空間で、何にもない場所のように思えた。
ふと脳裏に誰かの姿が過った。その人の顔も姿も見覚えはなかったが、懐かしい感じがした。
(これが走馬灯ってやつかな・・・。)
多分何処かで会った事があるのだろうその人の顔をはっきりと思い出そうとした時、遠くでエンジン音が聞こえた気がした。
(あー、次は幻聴・・・。)
音が聞こえた気がした方向に顔を向けると、遠くに人の影を見つけた。その影はスクーターらしきものに跨っており、こちらへ向って走ってきている。
(幻覚も見えるし、いよいよ最期なのかな。)
死が近付くのを感じているというのに、恐怖は全く感じなかった。ただ、先程浮かんだ人の事だけが心に引っかかった。
スクーターらしきものに乗った人物が段々こちらへ向ってきている。幸がもう何も考える気力がなくなった頃、幸の上に影が差した。
「よかった! 本当に人だった!!」
その声は幸のものではなく、スクーターから飛び降りた女性のものだった。