チェルト村からトープへ行くまではリケート砂漠という過酷な道しかなかったが、次に石版があると思われるソーズ湖遺跡までの道のりは舗装された道が多く、足取りが軽くなる。うららかな陽気の中街道を進んでいると、前方に人だかりが出来ているのが見えてきた。次第に騒々しい声が聞こえてきて、穏やかな事態ではない事がわかった。
皆が好き勝手叫んでいて内容がよくわからないが、何かの反対運動のようだ。次第にエキサイトし始め、誰かが胸ぐらを掴んだのを皮切りに殴り合いが始まった。
(いったい何事・・・!?)
幸は恐怖を感じ、様子を伺いつつ木の陰に隠れておそるおそる通り過ぎようとした。もう少しで人だかりを過ぎれると安心しかけたその時、幸の行く手を阻むように新たな人間が歩いて来た。幸は慌てて隠れようとしたが、不自然な動きでかえって存在を相手に伝えてしまった。
「! おい、そこのお前!」
前方から来た男性が大股で近付いてきて、幸の身体が恐怖で大きく跳び上がる。
「なっなな何でしょう?」
「そのナリ、考古学者だな?」
「はっはい! そ、そうですが何か・・・?」
その瞬間男性は幸を睨み付け猛然と掴みかかると、幸を木陰から引き摺り出した。
「おいコラァ、考古学者ども!! てめぇらコソコソ隠れて土地に入ろうとしてんじゃねえよ!!」
男性は勢いに任せて幸を人混みの中へ投げ入れる。幸は踏み止まる事が出来ずそのまま人にぶつかった。
「は? 誰だこの子供?」
ぶつかった人は発掘作業向きの服を来た男性で、きょとんとした顔で幸の顔を覗き込む。
「しらばっくれんな! こいつも考古学者だろ! こっそり通り抜けようとしてたぞ!」
「知らないぞ、こんな子供!」
「そう言ってこないだも勝手に土地に入ってきたじゃねーか!!」
「そうだそうだ!」
回りで話を聞いていた人達が拳を掲げて再び殴り合いに発展する。そのまま幸ももみくちゃに掴まれた。何事ですかと尋ねても、回りの人々はエキサイトしていて幸の声が耳に届いていないようだった。
その時鋭いホイッスルの音が聞こえ、一瞬の隙に喧嘩をしていた人々の間に制服を着た人達が割り込んできた。幸は不安定な体勢から突然手を離されてしまって地面に転がった。立ち上がろうと顔を上げると、割り込んできた人は警察だった事に気が付いた。そして警察の後ろから壮年の男性が顔を出した。
「止めろ! 何で殴り合いになってるんだ!?」
男性が睨みを効かせると辺りにいた人は一瞬怯んだが、すぐに口を開いた。
「村長! こいつらまた勝手に土地に入ろうとしてきたんだ! 止めようとしたら向こうから殴りかかってきたんだ!」
するとそれを聞いた作業服の男性がすぐさま言い返す。
「こっちだっていつまでも待ってられねーんだよ! つか、殴ってきたのはそっちが先だろ!?」
「何だと!?」
三度剣呑な空気が流れ始め、警察が取り押さえる。しかし依然興奮したままで幸の方を睨み付ける。
「それに隠れて侵入しようとした奴もいるしな。」
そこで幸はようやく言葉を発する機会を得た。
「えと・・・、私はソーズ湖方面へ行こうとしていたんですけれど・・・。」
「しらばっくれんな! お前考古学者だって言っただろ!?」
男性に怒鳴られ幸は身を竦める。
「バッカじゃないの?」
その時呆れ返った女性の声が聞こえてきた。怒鳴った男性は幸が言い返したのだと思い、幸に掴みかかろうとしたが、人混みの外に幸より少し年上の少女が立っている事に気が付いて動きを止めた。
「隠れて入ろうとしてる人が、わざわざ自分の正体バラすわけ?」
周りの屈強そうな男性達を見ても一向に怯む事なく少女が言い放つ。その言葉で男性が我に還る。
「あっ・・・! じゃあ、本当にたまたま関係のない考古学者が通りかがっただけ・・・?」
幸が頷くと、男性は顔を真っ赤にした。
「だから知らないって言ったじゃないか。」
そして作業服の男性が追い撃ちをかける。
「そっ、そもそも疑われるような事をするのが悪いじゃないか。」
男性は負けじと言い返そうとしたが、自分にも非がある為強くは言い返せなかった。
「はいはい! もうおしまい! 解散解散! 話はまた明後日の説明会でして頂戴!」
すると少女がズカズカと間に入り込み、皆に帰宅を促す。勘違いをした事で冷静さを取り戻した人々は素直にその場を後にしていった。
「あんたも大変だったね。」
少女が幸の手を掴んで人の流れから引っ張り出す。
「いったい何だったんですか・・・?」
「もしよかったらお詫びもかねて、バロー村に来てくれるかな?」
すると村長と呼ばれた男性が穏やかに幸に話しかけた。