「幸すごい! めっちゃくちゃ安く買えちゃったじゃん!」
榎菜が意気揚々と店から出る。
「見積が大体合っててよかったー。検討外れな価格を言っていたら絶対にここまで安くならなかったよ。」
対して幸は安堵する。
「値下げ交渉は元値を知っていると有利なんだね。」
「あとは他店の平均価格とかね。でも値下げに応じてくれないお店もあるから、運任せのところもあるよ。」
「それでもすごいよ。幸の家は何か商売とかしてたの?」
「ううん。でも近所に商店がたくさんあって、いろんな人が値切り交渉をしていたから何となく覚えちゃったのかも。」
「なるほどー。・・・あ、次この店入ってもいい?」
裏道にひっそりと建っていた骨董品店に入っていく。食器や絵画に紛れてフロンティアの道具も幾つか並んでいる。
「おお! ここの店って他の所より安い!」
「考古学者が直接販売する時の価格とそう変わらないなぁ。ここって直売店なのかな。」
店内をきょろきょろと見回していると、体格のいい男性が数名入ってきて、レジに何やら古い品々を並べ始めた。
「・・・榎菜、このお店を出るよ。」
「え? 何で?」
「ここは闇市だ。許可証が掲示されていないのに買取を行っている。」
幸が声を潜めてレジにいる男性達の方を見る。榎菜もレジの方を見ると店主が男性達の持ってきた品を見定めている。
本来発掘したり遺跡から発見された物は、発見された近辺を調査担当している考古学チームに報告する義務がある。しかし近場に研究室がなかったり、どこに所在しているのかわからない場合に備え、骨董品店でも報告する事が可能となっている。その為報告漏れ防止に国から許可証を発行してもらわなければ買取を行ってはいけないと法律で定められている。つまりその許可証がないこのお店は違法店で、買い物をすれば最悪警察に捕まる恐れがあった。
榎菜は持っていた商品を棚に戻し、外に出ようとする。その時すれ違い様に他の客にぶつかってしまった。
「あ、すいません。」
「いえ、こちらこそ。」
軽く会釈をして店の外へ一歩踏み出す。
「おいこらちょっと待て!!」
突然店主が叫んだ。一体誰の事を言ったのかわからなかったが、驚いて店主の方を振り返る。
「そこの背の高い女ぁ! うちの商品ひったくったろ!!」
事態が呑み込めず辺りを見回す。店内にいるのは幸と榎菜を除いて全員男性だった為、幸より背の高い榎菜の事を言っているのだろう。
「えええ!? 盗ってませんよ!? この荷物は別のお店で買った物ですし!? ほら、他のお店の値札が付いてるでしょ!?」
とっさに袋から先程買った部品を取り出す。しかし袋から出てきた物は見覚えのない品で、そこにはこのお店の値札が付けられていた。
「あれ・・・?」
覚えのない事態に冷や汗が流れる。
「盗ってんじゃねーか、この万引きが!!」
店主が猛然とレジカウンターから出てくる。
「逃げよう!!」
幸が榎菜の手を掴む。榎菜は慌てて何故か入っていた商品を近くにあった棚に戻して走り出した。振り返ると店主が追いかけてきている。
「何で荷物の中に見てもない物が入ってるの!?」
「きっと榎菜にぶつかってきた人が店主とグルで、賠償金や示談金を支払わせようとしたんじゃないかな?」
榎菜が棚や商品にぶつかる事はなかったので、考えられるとしたらこれしかない。
店主を撒く為右へ左へ細い道を曲がっていくが、距離が開くどころか次第に追いつかれていく。
「なっ・・・何か足止め出来る物はないかな・・・?」
榎菜が鞄の中を探る。
「・・・よし、発光石のライト!」
目くらましをしようと光らせたが、少し目線を逸らされてしまえば意味がなかった。
「ううう・・・、他には・・・クラッカーみたいな物!」
筒状の紙についた紐を引っ張ると、パンッと大きな音が鳴り響いた。店主は一旦怯んだものの、すぐに走るペースを上げて2人に迫る。
「だっ・・・だめだ・・・追いつかれる・・・。」
榎菜の息が上がり、足が次第にふらつき始めた。
「・・・! そうだ! 榎菜、買った物を貸して!」
「えっ・・・!?」
訳が分からないまま幸に荷物を渡す。袋の中から冷却か加熱をする液体のような物が入った筒を、自分のウエストポーチからライターと水筒を取り出す。
「上手くいきますようにっ。」
幸が道端にまとめて置かれていたゴミ袋のうちの1つを蹴り上げた。すかさず筒をゴミ袋に当てライターで筒を加熱する。するとゴミ袋が激しく燃え出した。
「うおっ!?」
突然の事態に驚いて店主の足が一瞬止まる。続いて水筒の水を燃えているゴミ袋に勢いよくかけると、大量の煙が上がり幸達と店主の間に煙幕を張った。
「今のうちだ!」
幸と榎菜は再び走り出した。店主も慌てて煙幕を突っ切ろうとするが、ゴミの燃えカスに足を突っ込んで転んでしまった。