ルイン遺跡を離れ、幾つかの街や遺跡を通り過ぎ、ようやく幸と鈴音はヘリド遺跡があるカイヴへやって来た。
「結構日が高いうちに着いたわね。これならヘリド遺跡に行けるんじゃない?」
「そうだね。石版を探すのはもちろんだけれど、ヘリド遺跡自体も行きたいから今日から入ってみよう。」
 軽食を取ってから2人は遺跡へと向かう為に大通りに出た。大通りを通るとあちこちに書店が建っていた。そして道の突き当たりにシャナ国一の蔵書数を誇る国立図書館が見える。幸は入ってみたい衝動にかられつつも、遺跡が優先だと頭を振って好奇心を振り払った。
 その国立図書館から距離をおいて隣に建っている石造りの建物を見上げた。華美な装飾はなく落ち着いた佇まいではあるが、長い年月によって醸し出された風合いが建物を荘厳に見せていた。
「これがヘリド遺跡ね。フロンティア時代の図書館って聞いてるけど、どんな本が並んでるのかしら?」
 ヘリド遺跡の大部分は一般公開されているので、手続きなく建物の中に入れた。するといきなり目の前に2メートルの高さの石版が立っていた為、鈴音は驚いてのけ反った。
「こんな所に石版なんて置いちゃ邪魔じゃない。」
 鈴音は呆れて石版を回り込んだが、その先の光景に息を飲んだ。
 広いフロアの中に大きな石版が迷路のように延々と並んでいる。
「ヘリド遺跡にある書物はほとんどが石版なんだよ。」
 幸は入口の石版に近付いて刻まれている文字を辿る。それには館内案内が刻まれていた。
「紙の本も所蔵されていたみたいだけれど、噴火のせいでほぼ燃えちゃったそうだよ。」
「へぇ、石の本の図書館か。」
 鈴音が興味深く石版を見たものの、書かれている文字は全てフロンティアの文字で理解出来なかった。
「ねぇ、幸はこれ読めるの?」
 鈴音が石版を指差す。幸も同じ石版の前に立って文章に目を通す。
「えっと・・・、この石版は『ヘリド村史』の目次だね。隣の石版から村の成り立ちの解説が書かれているよ。」
 幸は隣の石版へ移動し、かいつまんで本の内容を読み上げていく。
「すごいわね。私なんて文字1つすら何て意味なのかすらわからないのに・・・。」
 鈴音は感嘆のため息をあげる。その言葉を聞いた幸は石版の文字を指差した。
「フロンティアの文字は私達が普段使っているオーティスト文字と違って、文字1つ1つには意味がないんだ。文字の組み合わせでそれが何て意味なのか知って、それをシャナ国の語順に並び替えて読んでいるんだ。」
「そうなんだ。フロンティアの文字は表意文字じゃなくて音読文字なのね。」
 幸は文字に指を走らせ「この文字列は『村』、これは『隣』とか『場所が近い』って意味だよ。」と説明していく。

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