昔、トレジャーハンターといえば、考古学者の代わりにトラップの仕掛けられた遺跡に乗り込み、重要な資料を持って帰るのが仕事だった。しかし危険を伴う為に大金が手に入りやすい職業柄に盗賊達が目をつけ、自らトレジャーハンターと名乗って好き勝手盗掘し出し、今ではトレジャーハンターは盗賊の代名詞になってしまった。
 幸は誰にも気付かれないよう彼らを睨み、料理に手をつけ始めた。

 料理を全部平らげ、店から出るとやや乾燥した風が幸の髪をもてあそんだ。帽子を被り直し歩き出すと、前方の建物から騒ぎ声が聞こえてきた。その建物には「骨董品屋」と書かれている。なんとなく何が起きているのか予測出来た幸は、静かに建物の中へと入っていった。

「だーかーら、こいつはエイス遺跡から取ってきた壺だと言ってるだろうが! ここにフロンティアのマークだってあるだろ!?
「お客さん、引き上げてくれないか? その壺はあきらかに最近つくられたものじゃないですか。」
 トレジャーハンターらしき3人組の男性が、フロンティアの時代につくられたらしい壺を買い取ってもらおうと口論している。店員は困り顔で、必死に彼らを帰そうとしているが、相手も帰る気はないらしくその場を動かない。
「何度も言わせるな! これは・・・」
「へえー、立派な壺ですね。」
「・・・誰だ、お前?」
 幸が男性の後ろから壺を覗き込んでいる。幸は男性の質問を無視し、話を続ける。
「さぞかし大変だったんでしょうね・・・・・・こんな立派な偽物をつくりあげるのは。」
 その場にいた全員が思わず固まる。骨董品はおろか社会すら見慣れていないだろう15歳くらいの少女がそんな事を言うとは思わなかったからだ。
「なっ・・・、おいおい嬢ちゃんよく見てみな。ここにちゃーんとフロンティアのマークが入ってるだろ? 知ってるか? このマークはな、フロンティア時代の特殊な力を秘めた道具にしか入れる事が許されてないものなんだぞ。」
 男性の1人が指差した先には確かにフロンティアのマークが刻まれていた。しかし1つ、重大な間違いがそこにはあった。
「あー惜しいですね。そのマーク、間違っていますよ。」
 にこっ、と笑顔で答え、ウエストポーチからノートと鉛筆を取り出し、何かを描き始めた。

「フロンティアのマークは2種類あります。1つは建築物、聖域、書籍、石版等、つまりフロンティアの所有物を表すためのマークと、もう1つはあなたが言った通り何か特殊な力が込められた調度品、壺とかですね、等を表すマークがあります。で、その壺は特殊な力が込められたものと言いたいんでしょうが、残念、そのマークは所有物を表すマークです。」
 幸は描き上げたものを男性達に見せた。
「力が込められたもののマークは所有物のマークに円と五角形が追加されています。五角形は元素を意味し、円はその元素の循環を表しています。そしてそれは力の循環を表す為、この品にはその力が込められていることを示します。あなた達が持ってきたものには円と五角形がない、つまりそれは偽物であり、例え本物であったとしても、力の循環がない、ということは失敗品か不良品ということで価値はぐっと下がります。」
 まさかそんな専門的な話を聞かされると思ってもいなかった3人組は、口を開けて聞いている事しか出来なかった。
「まぁ、マークの意味はともかく、マークの種類を知っているのはトレジャーハンターの常識ですよ。」
 最後にとどめを刺す。
 それを聞いた3人組は、恥辱に震え顔を真っ赤にした。
「お前っ! よくもバラしてくれたなっ!!
 リーダー格らしき男性が幸に拳を振り落とす。店員は驚いて目をつぶる。

 しかし、異変に気付いた店員がそっと目を開けると、まさしくそこには目を疑う光景があった。
 15 歳という年齢を考慮しても小柄な少女が、豪腕な男性の腕を片手で支えていた。男性の方も驚き、腕を動かそうとするがびくとも動かない。
「まったく、か弱い女性に手を挙げるなんて最低ですね。
 ・・・まあ、私はか弱くありませんけれど。」
 幸は全体重を男性の腕へと掛ける。腕を振り下ろそうとしていた反動も加わり、男性は前のめりになる。男性が体勢を直しきる前に地面に背を着き、男性の腹目掛けて蹴り上げた。男性は宙を舞い、その場にいた全員が絶句する。その間に幸は蹴り上げた反動を利用し、後転して立ち上がった。
「・・・まだやる?」
 挑発してみたところ、3人組は真っ青になりその場を立ち去った。
「・・・・・・ん、食後に動くと横っ腹痛くなるなぁ。」
 苦笑いしながら幸はお腹をさすった。先程までとは打って変わって、年相応の表情をしている。
 店員は今起きた出来事が信じられなかった。しかし、
「あ・・・ありがとうね、お嬢さん。」
助けられたという事は疑いようのない事実だったので礼を述べた。
 それを聞いた幸は笑顔を返す。やはり、とても自分の倍もある体格の男性を吹っ飛ばしたようには見えない。
「さて、あんな人達をのさばらせない為にも、さっさと行きますか。」
 幸は何事もなかったかのように店を出て、目的地へと向った。

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