湖で溺れかけあわてて駆け込んだ宿では、水に落ちたり戻るのが間に合わず濡れてしまう人が度々いるそうで、新しい服や毛布が揃っていた。それらに身を包み暖かいスープを飲むにつれ、じわじわと身体に熱が戻ってきた。しかしとても野宿出来るほど体温が戻ってきた訳ではないので、痛い出費ではあったが宿に泊まる事にした。
 翌日、日光浴をした後石文を書きなぐった場所へ向かった。昨日宿に入ってからも紙に書き写しはしたが、間違えていないか確認する為だった。
 向かう途中湖近辺に広がっていた屋台はこれから帰ろうとしている客にお土産を売ろうとしつつも少しずつ片付けを始めていた。幸が昨日湖から上がった場所はここからほぼ反対側にある為人気がほとんどない道を進む事になった。
 やがて文字の書かれた地面が見えてきて、幸は駆け寄った。
「よかった。消えていない。」
 ポーチから宿で取ったメモを取り出し、文章を照らし合わせた。

『科学の発展に伴い乾燥帯だったこの地は亜熱帯となり、水や食料不足で悩まされる事がなくなった。他国との関係は以前より悪化したが、国内は貧困がなくなった為犯罪も減り、治安が良くなった。人々は日々研究に励み、次々と自然現象の解明、それによる機械の発明を行っていった。その当時は文明を発展させる事に疑問を抱く人など誰もいなかった。
 しかしやがて文明の発達に警鐘を鳴らす者が現れた。文明が発達するにつれ外交が悪化の一途を辿り一触即発の事態だったというのもあるが、他国だけでなく自然界そのものに多大な影響を及ぼしかねないと感じたからだった。しかし大多数は世迷い言だと取り合う事をしなかった。』

「よし、間違っていない。でも今回の石版には前の石版に書かれていた過激派については触れていなかったな・・・。この研究に警鐘を鳴らした人達がやがて過激派と呼ばれるようになったのかな?」
 チェルト遺跡で見た石版の内容が物騒であった為にモヤモヤとした気持ちが残るが、気持ちを切り替えて次の石版がある場所をダウジングする。
 ダウジングが示した先は・・・
「ヘリド遺跡か。となると、また湖の反対側に戻らないといけないね。」
 幸は荷物を片付け地面に書いていた文章を消すと、来た道を戻っていった。

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