鈴音と旅を共にするようになって数日、幸は鈴音の身体能力に近付けるようトレーニングの教えを乞う事にした。
「別に私からトレーニング方法を聞かなくたって、幸も充分身体を動かせてると思うけど?」
 今回宿泊する町の広場で2人柔軟体操をしながら鈴音が不思議そうに問う。
「前にガフィート遺跡でハントした時に1歳上の人達に出会ったんだけれども、2人共大穴を助走もなしに飛び越えていたから、もしかして私ってまだまだ未熟なのかなと・・・。」
 トレジャーハンターと名乗った遠藤琳・鏐飛姉弟の活躍を見てから筋トレをしているものの、なかなか変化を感じられなかった為、2人と同等の能力を持っている鈴音に師事しようと思ったのだった。
「私が言って説得力があるかわかんないけど、多分私やその2人が異常なんだと思うけど・・・。」
 そう言って鈴音は苦笑する。
「・・・幸は忍者って知ってる?」
 柔軟体操が終わり、鈴音が立ち上がる。
「へ? 忍者ってフロンティアにいたとされている幻のスパイの事?」
 実在したか不確かな、奇術を使ってスパイ活動を行ったとされる職業だったはずだと幸は思い出す。
「そ。私のおじいちゃんが子供の時に忍者が主人公の物語とか流行ったらしくて、その影響でおじいちゃん歴史オタクなのよ。」
 鈴音は肩を上下させて大きなため息をついた。
「で、実際忍者になれるのか挑戦してみたいってバカな事を考えちゃった訳よ。自分自身は修行を始めるには年齢が行ってたし、自分の子供が生まれた時は仕事が忙しくてそれどころじゃなかったとかで、孫の私を忍者として鍛える事にしたんだって。」
 幸は呆然と鈴音が地面に線を引いているのを見る。
「それは・・・、思いきった事をしたね・・・。」
 50メートル先にも鈴音は線を引いて、スキップの要領で走るよう幸に指示する。
「全く恥ずかしいったらありゃしないわ。植木して毎日その上を跳ばせたり、プロスト村とヴォルバ村の間の道を岩をよじ登ったり降りたりしながら走ったり。ヴォルバ村の温泉で水の上を走れと言われた時は本気で泣いたわ。あの後おじいさんが小さい女の子に忍者修行をつけてるって一時期有名になって、恥ずかしくてしばらくヴォルバ村に行けなくなったし、本当嫌な思い出よ。」
 50メートルを走り終えた幸に歩いて戻ってきたら繰り返し走るよう指示する。
「で、こんな事やってたら木は無理でも岩くらいなら飛び越えられる脚力がついちゃった訳よ。」
 そのまま呆れた顔をして幸が走るのを見ていたが、やがて不適の笑みに変わる。
「でもま、お陰で盗賊からお金を盗めるようになってこうして旅が出来るようになったんだから、悪い事ばっかりでもないわね。」
 その表情を見て幸は思わず足がもつれる。
「こらこら、気を緩めない。腰を引いちゃダメよ。前に跳んでいくイメージで。」
 幸の僅かな緩みに気付いて鈴音が注意する。幸は「はい!」と短く答えて再び走り出した。

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