『大丈夫、身体の力を抜いたら水に浮かぶから。』
 ふと、誰かの声が聞こえた気がして我に還る。そして何と聞こえたのか思い出そうとして、言葉の意味を理解する。
「そうだ、先生が池とか水の中に落ちたら身体の力を抜けって言っていた・・・。」
 故郷のリトス村は川も溜め池もなかった為水泳の授業はなかったが、村を出て水場に行く機会がいずれあるだろうからと落ちてしまった時の対処法を学校で習っていたのを思い出した。
「・・・確か、身体を仰向けに寝かすように力を抜くんだよね・・・?」
 溺れない方法に気が付くと、あれだけ強張っていた身体が軽くなりすんなりと水に浮かぶ事が出来た。
 そのまま水面に浮かんでいると、徐々に水位が上昇し、自分が壁につけた穴が水に浸かっていくのが見えた。
「身体も一緒に上っていってる・・・。これなら穴から出られる!」
 少しずつではあるが、徐々に入り口へ近付いていく。それと同時に日も暮れてきて次第に穴の中が暗闇に包まれていく。幸は水面に浮かんでいる帽子をつかんでライトを点けた。笠をつけたまま点灯させているので周辺を均一には照らしてはくれなかったが、灯りがあるだけで安心出来た。
 ライトの光が天井に当たった時、天井だけ壁とは違う材質で出来ている事に気が付いた。初めは遠くて色や質感が違う事くらいしかわからなかったが、近付くにつれそこに文字が彫られているのを見つけた。
「嘘!? こんな所に石版が!?
 こんな所にいったい誰が石版を設置したのか腸が煮え繰り返そうになったが、メモ書きが出来ない今、暗記しなければ水没してしまうので解読もせずひたすら字面を頭に叩き込んだ。

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