やがて崖になっている湖の端へと辿り着いた。崖の壁にはしゃがんだ状態で潜れる穴が開いてあり、その先へ水晶が反応している事がわかった。
「ここを進むのかな? 一体どこに繋がっているんだろう・・・。」
 穴をライトで照らしても真っ暗で先が見えない。不安になりもう少し何かが見えないかと身体を穴の中へ潜り込ませた瞬間、地面に着くはずだった手が空を切った。
「へあああああ!?
 穴の先はすぐに落とし穴になっていて、体勢を崩した幸はなす術なく落ちていった。そして身体は地面ではなく水に受け止められた。水位は浅く、沈んだ身体が地面にぶつかったが一度水に入った衝撃で減速され、大怪我をせずに済んだ。
 水面と地面と二度ぶつかり痛い身体をさすりながら立ち上がると水面は肩にさしかかる高さだった。
「痛ったぁ・・・。なんですぐに落とし穴が・・・・・・!?
 ヘッドライトで辺りを見回し事態の深刻さに気付く。四方は壁で囲まれており、寝そべって手を伸ばしたら辛うじて触れられる程度の広さで通路やドアはない。潜って地面を確認してもそこには何の仕掛けも見当たらなかった。顔を上げると入ってきた穴までは6メートル程の高さがある。
「嘘・・・、あの高さまで壁を登らないと出られないの・・・!?
 壁は人為的に切り出されたようで一切の凹凸がなく、手や足を引っ掛けられそうにない。もっと壁と壁の間が狭ければ手足を伸ばして踏ん張りながら登る事も出来ただろうが、とても届かない。
 鉤爪とロープはあるが、肩より下が水に浸かっている為上手く投げられそうになく、そもそもロープの長さは6メートルもなかった。
 つまり、登る術がない。
「どどどどどうしようどうしよう! だっ、誰かー!!
 上に向かって声を張り上げるが、声が届いたようには思えなかった。そもそもここは立ち入り禁止区域で、幸がこの区域に入ってから見回りの人の気配も全く感じられなかったから、この付近を誰かが通りかかるとも思えない。
「嘘でしょ嘘でしょ! 何とか、何とかしないと!」
 パニックになって必死に壁をよじ登ろうとするが、爪がわずかに土を削るだけで身体を持ち上げれない。続いて鉤爪を取り出して右手で壁に突き刺すが、鉤爪は1つしか持っていないので左手を何処にも引っ掛ける事が出来ない。そこで鉤爪を抜いて出来た穴に左手をかけ、右手で穴を作っていきよじ登ろうとしたが、すぐにバランスを崩して落ちてしまった。
 何度も挑戦しては落ちていくうちに体力がどんどん奪われていき、次第に上れる高さが落ちていく。
「・・・っ! ・・・どう・・・しよう、出ら・・・れ・・・ない・・・。」
 壁にもたれかかり乱れた呼吸を整えようとするが、恐怖からどんどん呼吸が浅く速くなっていく。
 ふとその時、肩より下にあったはずの水面が顎の下にある事に気が付いた。初めは無意識のうちに膝か背中が曲がっているのだと思い背筋を伸ばしてみたが、水面はやはり顎の高さにあった。
「嘘!? まだ5時じゃないよね!? 何でもう水位が上がってきているの!?
 顔を上げて落とし穴の入り口を見たが、日の色はまだ日暮れの色をしていない。
「まさか、5時に水が戻ってくるのは解放区域の話で、この穴は深い場所にあるから、もっと早く沈み始めるの!?
 その事実に血の気が引き、まるで氷水に浸かっているように身体が寒さで痺れ始める。幸は壁を上ろうと躍起になったが、恐怖と寒さで腕が上手く動かない。
 気付けば水面は口のすぐ近くまで上がってきていて、幸は必死に背伸びをした。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 助けて! 助けて! 助けて! 助けて、・・・助けてお母さん! なっちゃん!!

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