木がまばらに生える景色の中、地平線がキラキラと光っているのに気が付き、幸は走り出した。
「着いた! モース湖!」
 目の前に巨大な湖が広がっている。対岸は肉眼で辛うじて視認出来るが、果たして湖がどのくらいの大きさなのか幸には想像出来なかった。
 幸は湖面ギリギリまで近付いた。陸地とは緩やかな坂で繋がっていて、風によって波が打ち寄せてきた。
「本当にこの湖の下に遺跡があるのかな?」
 湖の中を覗き見ようとするも、空が写りこんで途中で見えなくなった。

 モース湖は元々フロンティア時代に盆地に作られた集落だった。しかし地震により地下から水が溢れ出し、水没して湖になってしまった。
 やがてモース湖から流れ出る水で出来たソーズ川は大陸を縦断し海まで繋がったが、海の満ち引きの関係なのか、月に一度モース湖の水が大きく引き、湖底の遺跡が地上に現れる瞬間があった。今回この遺跡に石版があるようなので、その遺跡が現れる時を待たなければならなかった。
「さて、問題はいつ遺跡が現れる日なんだろう・・・。」
 幸は辺りを見回してみると、遠くに何やら屋台が並んでいるのが見えた。
「何だろう・・・。お祭り?」
 屋台の方へ歩いていくと、次第にたくさんの人が湖に集まっている事に気が付いた。ある人はカメラを三脚に取り付けて写真を撮り、ある人は小舟を漕いで湖の中心へ向かおうとしている。
「もしかして皆観光に来た人達?」
 ヒスト遺跡やチェルト遺跡に並び有名な遺跡ではあるが、いつでも見られるこれらの遺跡と違い、月に一度しか見られないモース遺跡の周辺はまるでお祭りのような賑やかさだった。
「これだけ人がいるという事は、もうすぐ水が引くって事だよね。」
 期待を膨らませて、近くで撮影をしていた人に確認すると、明日が水が引く日だとわかった。タイミングのよさに心の中でガッツポーズをし、せっかくなので屋台を楽しむ事にした。
 屋台を回りながら話に聞いた所、水は深夜から明朝にかけてゆっくりと引いていくらしかった。その様子を眺めてみたかったが、そうすると徹夜明けで遺跡内を歩き回る事になってしまう為断念して近場で野宿をする事にした。近くに観光客向けに宿は立っているが、料金が普段泊まる宿の3倍以上だった為思わずUターンして出てきてしまった。それに夜通し観察や撮影をする人達のテントがあちこち立てられているので咎められる事もないだろうと、人気の少ない場所で横になった。

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