そして説明会当日、代表の考古学者数人と、バロー村の住民のほとんどが公民館の会議室に集まった。
 警察も立ち会い緊迫した空気の中考古学者が挨拶をし、発掘調査の必要性を熱弁し始めた。しかしそれは重要な史料が発掘されていない事もあり説得力にはいまいち欠けていた。一通り説明が終わり、質疑応答が始まったもののこちらもはっきりとした回答が得られるものではなく、住民の不満が高まっていくのを感じた。
 続けて村長が住民の反対理由を述べ始めた。考古学チームに比べると筋が通っていたが、やはりこちらも決定打となる理由がなく、考古学者達は片手間に話を聞いているような態度だった。
 そしてやがてその態度に苛立った住民の何人かが声を荒げ、考古学者も睨みを聞かせ始めた。そして次第にお互い好き勝手に主張を始め、やがてキレた住民が椅子を倒して立ち上がり、警察が動き出そうとした。
「や、やめて下さい!!
 幸は見ていられなくなり、思わず大声で叫んだ。
「子供に何がわかる?」
「黙ってろ!」
 頭に血が上った住民が幸を睨み付けたが、幸は目を逸らさず見つめ返した。
「いいえ! 根本的な解決になりませんので、邪魔させて頂きます!」
 幸も負けじと声を張り上げた。
「まずバロー村の住民の皆さん。暴力に訴えかけてはいけません。いくら発掘調査が理不尽なものだったとしても相手に業務妨害や傷害罪で訴えられたら不利になります。中止を求める署名活動が住民の人数だけで足りないなら他村にも協力を仰ぐべきです。そして考古学者の方。反対運動が行われていると知っているなら反感を買わぬよう一旦作業を中断して、住民が納得する理由を獲得してから再度説明会を行うべきではないですか? 強行しても絶対に事態が悪化するだけです。」
 幸の言葉で一瞬皆の動きが止まる。しかしすぐに考古学者が反論する。
「住民を納得させる理由を見つけるには発掘調査をしねーと証拠が出てこねーじゃねぇか!」
「それは村全域から立ち退いて貰わないと出来ない事ですか?」
 幸の弁に住民達がそうだそうだと声を上げる。
「フロンティアは丸々シャナ国の下に埋まっているので、どこでも掘り返したら何らかのものは絶対に出てくるんです。だから無闇にあちらこちらも発掘してしまっては反って調査に時間がかかってしまうのではないでしょうか?」
 その言葉を聞き、考古学者達がピリピリとした雰囲気を出してきた。
「お前、一体何様のつもりだ?」
「一応考古学者です。」
「! だったらなおさら何で発掘作業の邪魔をすんだよ!」
「私は、歴史は教訓だと思っています。考古学は今の暮らしをよりよくする為の術であって、その為に今の生活を壊したら意味がないと考えています。先程も言った通りこの国はフロンティアの上に建っているんです。もしフロンティアの遺跡を全て調査するとなったら、シャナ国全土を立ち退きにしなければ発掘なんて出来ません。それは本当に必要な事だと思いますか?」
 幸の熱弁に考古学者達はやや怯む。
「何で国全土の話になるんだよ。俺達はこの村だけ立ち退きを要求してるんだ。」
「突き詰めればそういう話になってくるんです。こういった小さな立ち退きが国中で行われていたら、全土が移住を迫られているのと同じじゃないですか。」
 考古学者は言葉に詰まり、住民達がそうだと囃し立てる。
「だからまずは重要な遺跡を調査していって、それからじっくりとこの村にあるかもしれない遺跡を発掘するかどうか決めればいいのではないでしょうか。」
「・・・もしかしたらここに、その重要な遺跡が埋もれているかもしれないんだぞ?」
 考古学者の鋭い眼光を向けられ、幸は少し考える。
「そうですね。でも暮らしを良くする為の考古学で今の暮らしを無きものにするのは本末転倒ではないかと。」
 そして考古学者の目を見つめ返し、そのまま両者に沈黙が流れる。
「もう話は決まったようなものだろ・・・。」
 そしてその沈黙を破ったのは説明会の最初に挨拶をした考古学者の男性だった。
「高橋さん、どういう事ですか?」
 声を上げた男性の方を見て、1人の考古学者が呟いた。
「おれ達は歴史を知る仕事に誇りを持って作業をしなければならない。けれどもこの子が言うように国民の暮らしを犠牲にしてまで作業を進めるもんじゃない。」
 高橋という男性の言葉に考古学者達は大人しくなり、住民達の顔には徐々に喜びの表情が浮かび始めた。
「全く大の大人が子供に嗜まれるなんてみっともないな。焦らずきちんとこれからどうするのか、お互い納得出来るまでじっくり話し合っていこうじゃないか。」
 最初は戸惑っていた考古学者達も次第に頷き始め、やがて住民達から賛成の拍手が鳴り響き始めた。
 幸はホッとして椅子に座り込むと村長と奈瑞菜が近寄ってきた。
「秋山さん、混乱を止めていただき感謝します。」
「いえいえ、このままではどちらも納得いかない結果になってしまいそうだと思いまして。むしろ勝手にでしゃばってしまいすみません。」
 幸は困った顔でペコリと頭を下げた。
「いいんですよ。第三者の意見だからこそ皆さん耳を傾けてくれたんですよ。」
 村長は穏やかに笑ったのち今後の予定を決める為去っていった。
「あたしからも、ありがとね。あなたがいなきゃきっと殴りかかってたわ。」
 奈瑞菜の物騒な発言に幸は苦笑いを返す。
「・・・この先はきっと皆さんで解決して下さると思います。私はもう行きますね。」
 幸は立ち上がって公民館から出ようとした。しかし奈瑞菜が軽く幸の服の裾を引っ張って留める。
「ねぇ、もし結局この村を立ち退いて遺跡を発掘する事になったら、あんたトレジャーハントしてくれない? そしたらきっと皆納得すると思う。」
 奈瑞菜の言葉に幸は驚いたが、すぐに笑顔を返して頷いた。

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