バロー村は立っている民家は少ないが広い畑があちこちあり、作物も生き生きと育っている。大人は農作業をし、子供達も初めは親の手伝いをしていたが、次第に飽きて畑の周りを走り出した。しかし親は叱らずに穏やかに子供達を目で追った。
 そんな風景から一転、突然頑丈な柵で覆われた土地が現れた。看板には『発掘調査の為関係者以外立ち入り禁止』と書かれている。それを見て幸はようやく先程の混乱の事態が見えてきた。しかしその場は通り過ぎ、村の中程に立っている公民館へと招かれた。
 席に着くと紅茶とクッキーを出された。幸は話が先か食べていいものか迷っていると、先程の少女が遠慮なくクッキーに手を伸ばしてボリボリと食べ始める。その様子に村長は苦笑しつつ話し始めた。
「私はこの村で村長をしております日坂部雄一です。この子は私の娘で、奈瑞菜と申します。先程は失礼致しました。」
 日坂部村長が深々とお辞儀をする。一方の奈瑞菜は父親の事が目に入ってないように「食べないの?」とクッキーを差し出してくる。とりあえずクッキーを手にして日坂部村長が顔を上げるのを待ってから自己紹介をした。
「えと、私は秋山幸です。考古学者兼トレジャーハンターとして各地を旅しています。」
「なるほど。タイミング悪かったね。」
 奈瑞菜が先程の事態を思い出し、呆れ返った声で話しかけてくる。
「それで先程の混乱は、もしかして発掘調査をするかどうかで揉めていたんですか?」
 幸が質問すると、村長は困った顔で頷いた。
「そうなんです。畑を拡げる為に土を掘り返していたら、古い陶器片が出てきまして、考古学者を呼んだのです。しかし埋まっている範囲を調べていくうちに、住宅地の方まで埋まっているそうで、村全体を調査する事になりました。」
「つまり立ち退きを要求されている?」
「はい。でも立ち退きに賛同する者はおらず調査の打ち切りをお願いしたのですが、重要な遺跡が埋まっているかもしれないと却下されました。」
 村長は深くため息をついた。
「なるほど。立ち退き反対の署名活動はされましたか。」
「もちろんです。しかし村人全員の署名を渡しても、人数が少ないと取り合って頂けず・・・。」
「住民の総意を無視して調査を行おうとしているんですか。」
 いくら署名数が少ないからといって、そこに住む人達の意思を完全に無視するとは暴挙に等しい。
「ねぇ、秋山さん。調査ってこんな強引に進めるものなの?」
 奈瑞菜が身を乗り出して幸を見つめる。
「せめて村長から同意が得られるまで着工しないのが通例のはずなんですが・・・。強行するに値する理由があるのか聞いてみます。」
 幸が返答すると村長が安堵の表情を浮かべた。

前へ 次へ