遠くから見ても大きく見えた資料館は実際に側まで来ると、より一層大きく見えた。
 入り口前に置いてある案内板には、この資料館は当時の役所を再利用したと書かれている。
「はぁ・・・、シャナ国は何処の遺跡もスゴイネ。こんなに綺麗に残りよる。秋津国の遺跡は全て完全に当時のままのもんなんてないで。何処かは壊れとったり、修復されとるで。」
 那奈実は壁に触れてじっと見つめた。壁に傷はあるものの、どれも建物が壊れるきっかけにはなりそうにもない小さなものばかりである。
「フロンティアがそれだけ高い技術力を持っていて、壊れやすい木造建築が少なかったというのもあるけれど、1番の理由はフロンティア全土が一瞬で火山灰に埋もれたからかな。」
 幸は那奈実を連れて資料館の中に入る。
「もし地上に遺跡があったら雨や風にさらされて風化していったり、人々が立ち入って壊れたり、壊してしまったりするけれど、フロンティアは火山が噴火し、火山灰が降り積もっていってすっぽりと覆ってしまったから、風化したり壊されたりする事がなかったんだ。老朽化していた建物は重みに耐えられなくなって押し潰されてしまったのもあるけれど、それが遺跡が綺麗に残っている原因だよ。」
「なるホドー。」
 展示室には当時使われていた道具や、火山灰の中で炭化してしまった食物等が並べられている。「こんなもんマデ残っとるんやー。」と那奈実が感嘆の声を上げた。

 通路を進んでいくといったん中庭へ出た。すると那奈実は驚いて幸の後ろに隠れた。中庭に目をやると、そこには人の形をした石膏像が置いてあった。しかしそれは芸術的な美しいフォルムではなく、表面が凸凹していて、まるで生きている人間が岩をまとって固まったように見える。
「あれを見るのは初めて?」
 幸が尋ねると背後で那奈実は頷いた。
「何ていうか・・・生々しい感じがする・・・。何なん、アレ?」
「さっきフロンティアが火山灰に埋もれたって言ったよね。それは建物だけでなく生きていた人々も埋めてしまったんだ。埋もれて死んでしまった人間は土に還っていった。けれども肉体がなくなった事によって、そこには空洞が出来る。そして遺跡を発掘している時にその空洞を見つけたら石膏を流し込んで固めると、空洞が型になってあんな風に死んだ時の状態の像が出来るの。生々しいのはその型が人の手で彫って作られたものじゃなくて、本物の人間を型にしたからだろうね。」
 那奈実は幸の後ろから離れず、その状態で石膏像を見ていく。その像は皆うずくまっていたり、逃げようともがいているポーズをとっていた。
 中庭から再び建物の中へ入ると、そこにはフロンティアの年表や他国のフロンティアに関する文献が置かれていた。様々な資料を見ていくうちに那奈実はある違和を感じ始めた。
「ねぇ、幸。フロンティアが何で滅んだんかは分かったケド、何か変デス。何か不自然デス。」
 感じている違和に言葉を当てはめる事が出来ず、口をモゴモゴしていると、幸が振り返って言った。
「『何故フロンティアがこんな大規模な噴火に気付かず滅亡したか』?」
「そうデス! それデス!」
 那奈実は思わず手を叩いた。
「世界史の授業でフロンティアは自然を操る術を知っていたと習いマシタ。そんな国が国1つ滅ぶような大災害に気付かない訳がありまセン。やのにあまりにも被害者が多いデス! 想定よりも被害区域が大きかったのかもしれまセンが、それにしたって逃げ延びた人が少なすぎマス。」
 展示物におおよそのフロンティアの人口推移が書かれたものがあり、そこにはフロンティアが滅んだ時の人口は限りなくゼロであった事を示していた。

「・・・幸はこの事知っとったん?」
 ふと那奈実は幸が那奈実の違和感の原因を悩む事なく即答した事を疑問に思い、聞いてみた。
「うん。これって歴史の中でも最も謎とされている事だからね。噴火したのは夜中で避難が遅れたとか、火山ガスで噴火に気付く前に中毒死したとか、色々と説はあるんだけれど、どれにしたって当時のフロンティアの技術なら国1つ消えるような大噴火なんてある程度予想出来ていたはず。実際小規模の噴火の予想噴火日と、実際の噴火日の記録が残っているんだけれど、多少の誤差はあるもののそれでも信用出来る的中率だった。ある研究者は『フロンティアの人々は逃げられないと理解し死を受け入れたため、逃げようとしなかったのでは?』って言っている人もいるけれど、でもそれでも全国民に噴火の事を報道したら最初は大混乱するだろうし、他国に逃げようとする人だっているに決まっている。でも発掘されたフロンティアの文献で、この噴火に関して記されたものなんて出てきていないし、他国の文献にもフロンティア人が大勢移民してきたという記録はない。だから謎なんだよね。」
 ガラスケースの中に収められた当時の文献を見る。そこには幸には馴染みのある古い文字でフロンティアの事が書かれている。
「そしてこの謎を解き明かす事が歴史に携わる人の1つの大きな目標で、歴史に興味のある人なら1度はこの話を聞いたことがあるんだよ。」
 幸が全て答え終わったのを見て、那奈実は唖然としてしまった。
「・・・はーー、やっぱ幸は物知りやん。」
「いやいや、こんなに知っているのは歴史くらいだよ。」
 幸は苦笑しながら次の部屋へ向かった。

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