ヒスト遺跡に着くと、本に載っていた写真で見たよりも広く感じられた。今まで見てきた遺跡のほとんどが建物1つを遺跡と呼んでいたのに対し、ヒスト遺跡はフロンティアの村1つを遺跡と呼んでいた。
「すごいなぁ、本当に丸々1つ村が残っているなんて。まあ、全部の村を発掘しようとしたら、今の私達が住む所がなくなっちゃうからなぁ。」
苦笑しながら遺跡の中央にある大きな建物を目指す。そこはフロンティア時代の建物を再利用した資料館になっている。
その時、前方に背の高い男性の姿が目に映った。遠すぎて分からないが、大体置手紙の男性と同じくらいの身長だった。もしかしたらと思い、幸はとっさにその男性の後を追いかけようと走り出した。しかし、
「キャ!」
「わぁ! ごっ、ごめんなさい!」
曲がり角から現れた少女とぶつかり、その子を押し倒して転んでしまった。幸が顔を上げると、男性はいなくなっていた。
「大丈夫!? ごめん、よく前を見ていなくって・・・。」
「いえいえ! うちもよそ見しとったから・・・。」
覆い被さってしまっていた幸は素早く立ち上がり、少女の手を引いて起き上がらせた。その時に少女が腕を擦りむいているのを見つけてしまった。
「うわぁ!! 怪我までさせちゃっている!? 本当にごめん!」
「いんや、この位ようある事ダヨ。」
「いやいや、見せて。」
幸は少女を近くの段差に座らせ、水筒を取り出した。
「水だから、これで傷口を洗って。」
「ええ!? 飲み水は大事ダヨ、洗わんで大丈夫!」
「汚れているし、細菌が付いているかもしれないじゃない。それに私の所為なんだから、これくらい当たり前だよ。」
少女は戸惑いつつも腕を洗い、幸はてきぱきと処置をした。
「ううっ・・・アリガトウゴザイマス・・・。」
少女は幸にお辞儀をした。すると彼女の長い髪で顔が隠れた。一見何処にでもいそうな女の子。しかし彼女の喋り方は独特ななまりがある。
「・・・あなたって秋津国の人?」
「はうっ!? やっぱ分かりマスよね? なまってマスよね!?」
彼女は顔を勢いよく上げ、幸を見つめた。
秋津国はシャナ国の東隣にある小さな国で、フロンティアが滅んで周辺の国々の民族が移住してきた時に、公用語として秋津国の言語が使われた。そのためシャナ国と秋津国は同じ言語を使用しているのだが、数百年の間に喋り方が微妙に変わってしまったため、なまっているように聞こえてしまう。ただ、もともと秋津国は方言が多いため、最初からなまっていたものが伝わったのかもしれないが。
「でもあなたにとっては私達がなまっているように聞こえるよね?」
「確かにそうダケド・・・、でも郷に入りては郷に従えって言うヨ。」
少女は拳を握って答える。
「あ、そういえば名前教えとらんかったネ。うちは野々村那奈実っていいマス。那奈でええヨ。あなたの名前は?」
「私は秋山幸だよ。」
「あきやまさち・・・。」
那奈実は幸の名前を続けて唱えた。
「シャナ国あちこち見てきたケド、色んな国の文化混ざっとる割に名前の付け方は皆秋津国と同じやー。」
そう言って不思議そうに幸の顔を見つめる。しかしそれは幸に答えを求めている訳ではなく、ただ思い浮かんだ疑問を独り言のように口にしただけのようだ。
「うーん、カンティ国とは同じ文字・文法を使うけれど読み方が全く違うし、メルス国、イスト国の言葉の発音は私達の文字で上手く表記出来ないから、自然と秋津国と同じような名前になったんじゃない?」
幸が考えた末答えると、那奈実は目を輝かせた。
「スゴイ! 幸って物知り!?」
「いや・・・そうでもないけれど・・・。」
事実社会科の勉強は得意だったが、それ以外は疎かったので否定した。しかし那奈実の輝いた目を見て、あることを思いついた。
「そうだ、自然科学とか聞かれても分からないけれど、この国に来て思った疑問とか、特に考古学・歴史学は詳しいから色々教えてあげるよ。」
ぶつかったお詫びも兼ねて提案すると、那奈実は幸の手を掴んで嬉しそうに立ち上がった。
「うわあ! 本当デスカ!? うちシャナ国観光に来たくせに歴史とかよう分からんくて・・・。嬉しいデス! うちさっきここ着いたんで、よかったらあちこち見ながら教えてほしいデス。」
「いいよ。私も来たばっかりで、これから見て回る所だったんだ。」
幸も立ち上がって、まず資料館に行く事にした。