「ちょおそこの人、何か見てかへん?」
 踏み固められて出来た道と、大岩が転がっているだけの殺風景な景色の中で幸は2人の青年に呼び止められた。
 2人の青年の前には長机が置いてあり、お世辞にもセンスがいいとは言えない奇妙な品々が並べられている。値札が付いているためそれらは商品なのだろう。机の下には商品の入った段ボール箱が置かれていて、まだまだ在庫が残っている事が目に見て分かる。そして彼らの後ろには人の身長より高い大岩があり、後ろから盗賊などに狙われぬよう注意しているようだ。しかし何故こんな人気のない道のど真ん中で露店を開いているのだろうと疑問を抱きつつも、物珍しさから寄っていく。
「何か買うてってくれはると嬉しいんですが・・・。」
 幸を呼び止めた方ではない青年が穏やかな笑顔を幸に向ける。その一方でもう1人の青年が次々と商品説明をし始めた。
 幸は2人の青年の顔をよく見た。第一印象では彼らは正反対のように思えた。次々と喋り続ける体格のいい男性はシャナ国人らしい小麦色の肌をしていて、髪の毛は癖毛ではねていて少々硬そうだ。初めて会った人なのに親しみを感じさせる雰囲気を持っているが、少々暑苦しい気もする。もう1人静かに相方の話を補足する細身の男性は、こんな日陰のない場所で商売しているのが信じられないくらい肌が白く、髪の毛はまっすぐでさらさらしている。人の外見など気にしない幸でも思わず見てしまうくらいの美形で、少し近寄りがたい雰囲気を持っている。こちらは見ていて涼しい感じがする。しかしその2人の珍しい共通点といえば関西弁を喋っている事であった。
「・・・てな訳で、何か気になるもんがあったら買わな損やで!!
「そう言われても・・・、旅をしている私にはどれも不要だからなぁ・・・。」
 事実ここに並んでいるものはインテリア商品が多く、日用に使えそうなものでもかさばるものばかりで邪魔になるだけだった。
「お客さん、もしかしてトレジャーハンターとかですか?」
「えっ? ・・・あ、はい、そうです。」
 何故トレジャーハンターと気付いたのか分からなかったが、わざわざ嘘をつく必要もなかったので肯定した。男性は「ほう。」と小さく声を出したが、その一瞬凍りつかんばかりの殺気を感じた。
「何や、旅人さんか! そりゃこんなとこ通る人言うたら旅人やんなあ!」
 もう一方の男性は何も気付いてないように歯切れよく笑った。
(何だろう、この人達・・・。)
 何かしらの恐怖を覚えて、幸はこの場を去りたい気持ちになってきた。
「ほなこれならあって大助かりやろ。最新版シャナ国地図!」
 何処から取り出したのか、男性は机の上に半分叩きつけるような勢いで本を置いた。
「冊子タイプやから見たい所がすぐ見れるし、何と言っても最新版! 毎日のように新しい遺跡が発掘されるこの国じゃあ次々と地図が変わってくしな、買うて損はせんやろ!」
 確かに日々この国は変わっていく。だから常に新しい地図を持っていないと大事な事を見落としてしまう恐れもある。また幸の持っている地図は2年前のものなので新しい地図を買っても悪くはないだろう。
 幸は値段を確認した。少々高いが、これくらいならまだ出せる。
「・・・・・・買います。」
「おおきにーー!」
 幸はお金を払ってその場を後にした。

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