「うーん、道が左右に分かれているけれど、どっちに行こう?」
階段を下りてすぐ、道は左右に分かれていた。幸が六角水晶を取り出してどちらに行くべきかダウジングしようとした時、左側の通路から車輪が転がる音と足音が聞こえた。左を向くと土砂の入った一輪車を押す男性の姿が見えた。
「おや、嬢ちゃん、どうしたんだい? 見学かい?」
幸は首を横に振り、「トレジャーハントをしに。」と答えた。
「嬢ちゃんトレジャーハンターかい!? いやぁ、分からなかったなー。」
幸の隣まで来ると、一輪車を置いて一息ついた。
「なら右に行きな。左はまだ発掘中で通れねえんだ。この土砂も発掘作業で出たものさ。」
男性は一輪車を目で示しながら言った。
「右はあまり埋もれていなかったんですか? それとも右から発掘していったんですか?」
幸は興味を持ち、質問した。
「右側はあんま埋もれてなかったんだ。嬢ちゃんも歴史に関わる者なら知ってるだろ? フロンティアが巨大な噴火によって火山灰の下敷きになって滅んだ事。その噴火の土石流は建物の、俺達で言やぁ左側から流れてきたんだ。で、左側はいくらか埋もれちまったんだが、左側が壁になって右側はあんま埋もれずに済んだって訳だ。」
「そうなんですか。」
幸が納得すると、男性は地上へ続く階段を見上げた。
「さーって、俺はこいつを外に運び出さないとな。」
「えっ!? 手伝いましょうか?」
幸は男性が1人で一輪車を運ぶのかと思い、提案した。
「いやいや、外にいる奴に声かけるから大丈夫だ。」
男性は快活な笑い声を上げ、階段に足を1歩かけたが、ふと立ち止まった。
「そういや、さっきも1人兄ちゃんがトレジャーハントしに来てたなぁ。仲間か?」
「いえ、私は1人で来ましたが・・・?」
「そうか。じゃ、気をつけろよ。」
そう言うと再び階段を上り始めた。
「・・・トレジャーハントって言ったのに驚かれなかったなんて、当たり前だったはずなのに変な感じ。」
男性の姿が見えなくなってから幸は呟いた。
しかしこのエント遺跡ではトレジャーハンターが必要不可欠であった。右へしばらく進んでいくと、床が崩れ、1階まで吹き抜けのようになってしまっていた。向こう岸へは背が高く、幅跳びが得意な人ならギリギリ跳んで渡れそうだが、普通の人はまずこの先へと進めなかった。このようにエント遺跡は所々崩れてしまっているために考古学者が遺跡の隅々まで調べる事は困難であった。そこで運動能力の高いトレジャーハンターが代わりに史料を持ち帰らなければならない。そういう訳で考古学者はトレジャーハンターを歓迎していたため、あの男性は驚かなかったのだった。
幸はウエストポーチから鉤爪を取り出し、ポーチの横にぶら下げていたロープを外してしっかりと括りつけた。そして鉤爪が付いた先を回して、対岸の床へ投げて引っ掛けた。体重がかかっても外れたり崩れたりしないか確認してから、なるべくロープを短く持って対岸へ向かってジャンプした。もちろん向こうの床に辿り着ける訳がなく身体は2階へと落ちていき、やがてロープが伸びきると振り子のように3階の床の裏、つまり2階の天井に近付いていく。そして2階の天井にぶつかる前に天井を強く蹴って逆方向へと進んだ。逆方向には天井がないため3階まで振り上げられ、もうすぐ1回転する所で手を離して体勢を整え着地し、目的の3階の対岸に辿り着いた。
「・・・・・・この方法、ちょっと怖いなぁ・・・。」
少し心拍数が上がってしまったのを落ち着かせながら、床に食い込んだ鉤爪を外した。