店内には朝食を食べに来た人達で賑わっていた。それほど人が居る訳ではないのだが、店主の腕を振るう音がそうさせていた。また小さいもののテレビが置かれてあり、その声がさらに賑やかさに拍車をかけていた。
 幸はテレビから1番離れた席に座った。しかしテレビの角度が丁度幸の方を向いているので否応なしに目に入ってくる。テレビを見ながらの食事は好きではなかったが、思わず見てしまう。テレビではシャナ国の土壌問題についての特集がやっていた。シャナ国の土壌は汚染されているので雨が降っても植物が成長しないなどと言っている。料理が来たのもありテレビの音をぼんやりと聞き流す。
「! 美味しい!」
 思わず感嘆の声を出してしまった。
 何気なく入ったお店で美味しい料理に巡り会えると嬉しくなる。かつて食料が尽きた状態で野宿をする事になった時に、そこら辺に生えていた雑草や茸を食べてからは一切選り好みせず料理を食べるようになったが、やっぱり美味しいに越した事はない。思わず掻き込みたくなる気持ちを抑えてしっかり味わった。

 会計を済ませて店を出ようとすると、雨が勢いを増そうとしていた。
「さすがに傘を差さないと、買い出しが出来ないな。」
 ウエストポーチから折り畳み傘を取り出して広げようとした。が、固くて上手く開かない。金具が錆びているのかと思い、力を入れて押し広げようとしたとたん、バキバキと嫌な音をたてて金具が伸びきった。
「・・・・・・・・・・・・。」
 傘の軸は中程でうねっていて、曲がった軸を無理矢理戻した跡が見てとれる。生地は骨組みから外れていて、先程力任せに開こうとしたせいで骨もあちこち外れてしまっていた。
「・・・・・・・・・・・・しまった、忘れていた・・・。」
 いつだったかトレジャーハントをした時に高い所から落ちてポーチを下敷きにし、その時に傘を曲げてしまっていた事をすっかり忘れていた。余計な事を思い出さないようにしていたら、うっかり大事な事まで忘れてしまっていた。
 幸は軽くため息をついて、空を見上げた。
(近くに傘が売っているお店があればいいけれど。)
 折れた傘を無理矢理閉じて、雨の中を歩き始めた。

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